予備試験口述試験を振り返る

司法試験予備試験(2019)について書いてゆきます。

予備試験口述試験をどこよりも詳しく振り返る!

0 はじめに

 

この記事では、2019年司法試験予備試験口述試験を受けた平凡な学生が、試験で感じたこととこれから口述試験を受ける方に向けたアドバイスを、詳しく書いていきます。

 

私自身、2019年の口述試験の直前や試験期間中に、他の方の書いた口述試験についてのブログを読んで心が落ち着いた経験をしています。このブログを書いたのも、これから試験を受けるあるいは今まさに試験期間である方の心の平穏に少しでも資することができないだろうか、という気持ちからです。

試験勉強の息抜きの時とか、口述試験直前、試験期間中の隙間時間にでも読んでいただけますと嬉しいです。

 

なお、このブログのもととなる文章を書いたのは口述試験が終わってから2ヶ月ぐらいが経過してからのことです。したがって、記憶が所々曖昧になっているために間違いがある可能性もあります。ご容赦ください。また、所々あるアドバイスも、私が個人的に考えていることに過ぎませんし、裏を取っていない情報も多くありますので、あくまで参考程度でよろしくお願いします。

 

話をする前提として、自分の試験日程をお伝えします。

1日目(10/25 (土曜日)) : 午後 (12:00集合) 、民事

2日目(10/26 (日曜日)) : 午前 (8:30集合) 、刑事

 

「1 試験前日(2019年の場合10/25(金))」に続く・・・

 

 

1 試験前日(2019年の場合10/25(金))

 

私は試験会場の近くにホテルをとっていました(後で書きますが、東京暮らしの人であっても、ある程度(片道1時間以上が目安ですかね)時間がかかる人であれば試験会場近くにホテルを取ることをお勧めします)。そのため、私が浦安に向かったのは試験前日でした。試験前日の午後4時頃に家を出て(私の家は浦安から電車で1時間半程度の位置にあります)、5時半ごろにホテルにつきました。私は子供の頃よくディズニーランドに行ったので、浦安あるいは京葉線にはいい思い出しかありませんでした。しかし今般、その浦安や京葉線の思い出に傷がついたわけです。これほど不安で不愉快な気持ちで京葉線に乗ったことはないからです。

ホテルに荷物を置いて、まずは試験会場の下見をしました(もう真っ暗になっていましたが)。私が止まっていたホテルから試験会場である法務省浦安総合センターまでは徒歩で20分弱でした。

 

場所を確認し、センターの入り口の看板の写真をとって、来た道を戻りました。夕飯は新浦安駅のフードコートで食べました(後で書きますが、新浦安駅には結構食べ物屋さんが充実していますので、ここでご飯を食べるのが一つの選択だと思います)。食べ終わってホテルに戻りました。

 

ホテルに帰ってからは、かなり不安な気持ちで最後の要件事実の勉強をしました(後で書きますが、私は1日目が民事でした)。夜1時頃に寝ました。

 

「2 試験一日目(2019年の場合10/26(土))」に続く・・・

 

 

 

2 試験一日目(2019年の場合10/26(土))

 

次の日、いよいよ本番です。一日目は民事実務でした。

 

朝起きたのは6時半。起きてホテルのバイキングに向かいまいた。私が泊まったのは東京ディズニーリゾートに観光に来ている人が多く泊まっているホテルでしたから、レストランの周りにいたのはほとんど家族連れやカップルでした。しかも大抵ミッキーのキャラクターが描かれた服を身に纏っていて、楽しそうな雰囲気でした。かたや私はノープリントのやる気のなさそうなジャージをまとい、左手には民事訴訟法の本を持っています(すみません、これは嘘です。本当は民訴の本など持っていません。さすがに夢の国の周辺にあるホテルで既判力などのことが書かれた本など誰も見たくないでしょうから、自粛しました。なんかこういうエピソードがあったほうが面白いかなと思ったので、今でっち上げました。)。

 

私は午後グループだったので、午前中はホテルに待機していました。ホテルでは勉強をしていました。この時にやったのは法曹倫理です。やはり直前にやるべきものは、暗記中心で考える必要がないものに限るように思います。法曹倫理は覚えているか否か、これだけですから、直前にやるにはもってこいです。

 

11時15分ぐらいにホテルを出ました。服装はスーツです(後で書きますが、スーツで来る人が私が見る限り全員でした)。道中にはスーツを着た人がたくさんいました。これから浦安で就職の合同説明会でもあるのかな、就職活動は大変だけど頑張ってね、と街の人は思うでしょう。いいえ、もっと大変なことをしに行くのです。

 

それはともかく、会場に着きました。入り口には50人ぐらいの人が列をなして順次入場を待っていました。

 

階段を上って2階に行き、受付を済ませて、 いよいよ待機することになります。噂では聞いていましたが、待機場所は本当にただの体育館です(今年はコロナでどうなるのでしょうね)。噂によると、以前は靴にビニール袋をはめて館内を歩くことになっていたようです。しかし今回は普通に土足で入りました。変わったのでしょうか。

 

受付で、首から下げるカード(ここに番号が書かれています。④―2みたいな感じです。④は試験室を表します。2はその試験室での受験の順番を表します)のようなものをもらいました。これは噂に聞いたとおりです。それに加えてスマートフォンなどの電子機器を入れるための茶封筒ももらいました。その中にスマートフォンなどの電子機器を入れ、風を閉じるように要求されます。

 

体育館には椅子だけが多く並べられています。そして、各椅子に番号が書かれています。自分の番号が書かれた椅子が自分の待機椅子です。隣や前後ろの椅子の間隔が非常に狭いです。

 

集合時間(12:00)が経過すると、最初に係員から今回の試験についての一般的な説明があります。その時に紙をもらいます。今回の試験の流れと、司法試験の出願期間などについての話がかかれている紙です。説明が終わると、あとは呼ばれるまで待つということです。呼ばれると言っても一人づつ呼ばれるのではなく、○○列目の人、つまり一回で13、14人くらいが一斉に呼ばれるのです(つまり、試験室は13、14個くらいあります)。

 

12時に係員からの説明があって、12時40分ぐらいに1列目の人が呼ばれたと記憶しています。私が呼ばれたのは1時ぐらい(私は二番目の順番でした)です。私を含めた13、14人が、係員に連れられて体育館を出て、2分ぐらい歩いて、試験室近くの部屋「発射台」(自分の前の順番の人が試験を受けているときに、試験室のすぐ近くのこの部屋で待機し、自分の順番がきたらその部屋から試験室に発射されることから、そう呼ばれています)に向かいました。なお、もう体育館には帰ってこないので、全ての荷物を持ってゆきます。

 

試験室は、普段は寮として使用している部屋を使っているらしいです。イメージとしてはビジネスホテルです。狭い廊下があって、左右に多くの部屋があります。なぜかこの廊下が非常に薄暗いです。

 

発射台では、外は晴れていましたがなぜかカーテンが閉められていました。カーテンが赤系統なものでしたから、部屋の中は異様なピンク色です。すごい不吉な雰囲気です。もちろん誰も喋りません。

 

その発射台に5分ぐらい待ってついに私が呼ばれます。係員に案内され、自分の試験室に向かいます。各試験室の扉の外には係員が座るための椅子があります。私が室内で試験をしてる最中には、この椅子に係員が座って待機しています(多分)。また、扉の外には段ボールを広げたものが敷かれています。ここに荷物を置くことになっています。

 

試験室前での待機時間はありません。自分のタイミングで、心の準備がついたら適宜ノックをして部屋に入ります。心の準備といっても特にやることはありませんから、私は荷物を置いてすぐに部屋に入りました。部屋の中はまさに一人用のビジネスホテルのような感じです。細い廊下があって(廊下の途中にはドアがありました。おそらくはトイレとか洗面所のドアです)、その先に部屋があります(扉はありません)。

 

面接官は主査と副査で二人います(主査:基本的にはこの人と面接をする、副査:基本的には言葉を発しない)。私の場合は、主査が50代女性、副査が50代男性でした。

 

次に、部屋のレイアウトについて説明します。まず、部屋はビジネスホテルのシングルルームくらいの広さです。つまり、そんなに広くはありません。面接官の前には大きめの机があります。面接官が持っている書類(おそらくは採点表のようなもの)の内容を見られないように、机の淵に高さ20センチ程の衝立が置かれています。そして、机から2 m ぐらい離れた場所に私が座るための椅子が置かれています。私の椅子の左には小さめの机が置かれていて、その机の上に六法と今回の口述試験で使うカードのようなものが裏返しにして置かれています。なお、六法は予備試験論文式の時に使った六法と全く同じものです。色も形も、何もかも全く同じでした。

 

次に、諸々のお作法について簡単に説明します(一部今までに述べたことと重複します)。まず、部屋に入る際にはノックをしなければなりません(この点については、部屋に入る直前に係員から言われますので、忘れることはないでしょう)。そして、「失礼します」と言いながら部屋に入ります。次に、面接官に対して挨拶をします。なお、挨拶をするタイミングには注意が必要です。試験官は廊下の先の部屋にいるので、部屋に入った段階ではまだ面接官と顔が合いません。従って、挨拶をするのは廊下を進んでからです。

 

次に、これが一番注意すべき点ですが、挨拶をする際に自分の名前を言ってはいけません(この点については体育館の最初の説明で話されます)。ここで述べるのは、体育館に入る際にもらう首からかけるカードに記載された番号のみです(例えば、「②ー3」と書かれている場合は、「2室3番です。よろしくお願いします」と言えば良いです)。くれぐれも名前を言わないようにしてください。もし名前を言うとどうなるかはわかりません。ただ、流石にその時点で不合格ということにはならないと思います。おそらくですが、いったん試験を中止し、部屋を出て、諸々の手続きをして、違う部屋の違う面接官のもとで試験をやるのだと思います。

 

さて、挨拶をすると「おかけください」などと言われるので、「失礼します」などと言って座ります。座ったらいよいよ試験が始まります。

 

「カードを表にして、書かれている内容を読んでください。読み終わったら言ってください」みたいなことを言われました。指示に従って、カードを表にして書かれている内容を読みます。かなり緊張していたので、全然事例が頭に入ってきません。しかし、この事例がこれからの質問の全てのものであるから、ゆっくりで良いので、読み間違えることがないように丁寧に読んでいきました。くれぐれも、読めていないのに読んだと言ってはいけません。

 

カードに書かれていた内容は賃貸借についての話でした。賃貸借は勉強したことがあったので、とりあえず壊滅的な結果にはならないと一安心したのを覚えています。読み終わったあと、主査から質問がされます。要件事実のことを聞かれたり、証拠について聞かれたりして、最後に弁護士倫理のことを聞かれたりした。やりとりについては、別に書く再現答案を読んでいただきたいです。

 

そして、最後の質問が終わって、主査から「結構です」と言われたら、立ち上がって「ありがとうございました。失礼します」と言って部屋から出ます。カードは裏返して戻します(別にそのままでも良いと思いますが)。

 

所要時間は8分でした。私があらかじめ噂で聞いていた10分〜15分という所要時間に比べるとかなり短いと思います。基本的には、「所要時間が短いほど安心」と言われています。実際、部屋から出た時の感触としては、別にやらかした感はありませんでした。

 

試験室から出た後は、午前の人か午後の人かによって動きが異なります。午後の人の場合、そのまま直ちに会場を出て帰ることができます。一方、午前の人の場合、1度待機室(体育館とは別の部屋)に待機することになります。そして、午前の人全員の試験が終わるまで(あくまで僕の考えですが。ただ、待機室で待機をする目的は試験の内容が午後の部の人に伝わる(後で述べますが、試験内容は午前と午後で異なりません)ことを防止するためです。そうすると、午後の人の集合時間である12時を過ぎたら、まだ午前の部の人全員の試験が終わっていなくとも解散できるのかもしれません)その部屋で待機することになります。もちろん、そこでスマートフォン等を使うことは一切許されません。試験の情報が午後の人に伝わってしまうからです。では伝書鳩はどうなのでしょうか。鳩を飛ばしてはいけないとは書かれていなかったとは思いますが。狼煙も・・・良いのかもしれません。

 

さて、いずれにせよ、私の場合、1日目は午後からでしたから、試験が終わったらすぐに帰ることができました。建物から出るところでスマホ等を入れていた茶封筒を開き、その茶封筒をその場にあるゴミ箱のようなところに捨てることができます。

 

上にも書いたように感触は悪くなかった上、天気も良く暖かかったので、帰り道はとても気分が良かったのを覚えています。開放的な気分でした。

 

ホテルに帰ってからはアイスクリームを食べて、少し昼寝をしました。結局1時間くらい寝てしまいましたが。

 

大体5時ぐらいから刑法の勉強を始めました。刑法総論の最後の確認をしていました。途中6時ぐらいに新浦安駅に行って、ご飯を食べました。ご飯を食べながら、予備試験口述試験について書かれたブログなどを見ていました。試験直前の不安な状態においては、口述試験について細かく書かれているブログはとても参考になります。心が落ち着きました。私がこのブログを書こうと思ったのがこの体験を契機としていることは、上に書いた通りです。

 

7時頃にホテルの部屋に帰って、1時ぐらいまで刑法の勉強をしていました。この日に寝たのは1時でした。

 

「3 試験二日目(2019年の場合10/26(日))」に続く・・・

 

 

3 試験二日目(2019年の場合10/26(日))

 

試験二日目の朝は7時ぐらいに起きました。今日の試験は午前の部であったので、8時半までに会場に集合していなければなりません。従って、朝は忙しいです。昨日と同じようにバイキングでご飯を食べて(今日は刑法の本を持ってレストランに行きました(嘘です))今日はチェックアウトの日でしたから、部屋にある荷物は全てまとめてフロントに預けました。ホテルを出たのは8時ごろです。試験会場に着いたのは8時15分でした。

 

さて、今日も昨日と同じように受付をします。私の希望としては、二日目はなるべく遅い順番であって欲しいと思っていました。

確かに1日目の場合には、遅い順番になると(聞くところによると17時すぎに順番が回ってくるらしいですが)、1日目の試験の勉強は待機時間にたくさんできますが、ホテルや家に帰って二日目の試験の勉強をする時間は短くなってしまいます。つまりここにはトレードオフの関係があります。しかし、2日目の場合はもうこれで終わりです。そうであればなるべく遅い時間に行われた方が嬉しいと思ったわけです。

しかしながら、カードを見ると私の順番は3番目でした。あまり遅い方ではないので少しがっかりしました。

 

試験の流れは1日目と全く同じです。まず全体の説明があり、自分の順番が来るのを待ちます。一番目の人が呼ばれるまでの時間も、それ以降の時間間隔も、大体1日目と同じでした。つまり、全体説明が終わってから一番目の人が呼ばれるまでには40分くらいの時間があり、それ以降は20分くらいの間隔で次の順番の人が呼ばれます。三番目の順番である私は10時ぐらいに呼ばれ、発射台に移動しました。

 

発射台での過ごし方や、面接の流れは昨日と同じです。今回の面接官は二人とも男性で、年齢は二人とも40代でした。

 

なお、試験の方式についてですが、私は従前、刑事系科目では試験にカードを使わないと聞いていました。しかし、今回の試験ではカードが使われました。だから何ということはありませんが、来年以降もこの方式にある可能性があるので、一応確認されておくと良いでしょう。

 

今回の試験の内容は、承継的共同正犯と同時傷害の特例、そして訴因変更などです。試験の細かい問答は、後で書きます。

 

ちなみに、これは試験後に知ったことで、しかも真偽は不明ですが、法曹倫理についての出題は民事系と刑事系のうちいずれか一つでしか問われないということを聞いたことがあります。確かに今回も、1日目の民事系では法曹倫理の出題がありましたが、二日目の刑事系では法曹倫理が出題されていません。これは本当なのでしょうか。わかりませんが一応お伝えしておきます。

 

試験が終わったのは10時40分ごろでした。そこから12時ちょっと過ぎぐらいまでは、待機室で待機することとなります。

待機室は結構広い部屋です。午前に試験を受けた人全員が一つの部屋に集まります。待機室には大量の椅子が置かれていて、各椅子に番号が書かれていて、自分の番号の椅子に座ることとなります。私語はできません。して良いと言われても疲れていてしたいとも思いませんが(というか友人がいませんが)。スマホを使うことはもちろん厳禁です。トイレに行くことは基本的に自由です。

何をするということはなく、ただただ待機します。周りを見る限り、寝てる人もいれば何か漫画のようなものを読んでいる人もいたし、そして何より一番多かったのがボーッと座ってる人です。私もただただボーとしていました(ということで、もし荷物に余裕があり、かつ、気力に余裕がある自信がある人であれば、漫画とか雑誌とかけん玉とか、何か暇つぶしになるものを持っていっても良いかもしれません)。

 

12時過ぎに解散となりました。全員が列をなして一斉に部屋から出ます。

浦安総合センターの門を抜けた時の開放感と言ったら、とてつもないものです。8―城(二つ目)をクリアしたマリオでもこれほど清々しいとは感じていないでしょう。すべて自由です。浦安市を覆っていた深い闇が晴れ、浦安市は途端に地獄から夢の国に様変わりします。この感覚は、論文試験の終了時に感じるそれとは比べものになりません。何せ、予備試験の全てがこれにて終了したのですから。どうか受験生の皆さんも、この快感があることを信じて勉強を頑張ってください。

 

そして、4時ごろに自宅に到着しました。

 

さて、私の行動録はこれぐらいにして、次に、僭越ではありますが、受験生に向けたアドバイスを書いてゆきます。これからが一番伝えたいことですので、是非読んでいただけると嬉しいです。

 

4「これからの受験生へのアドバイス」へ続く・・・

 

 

4 これからの受験生へのアドバイス

 

最後に、受験生の皆さんに何点かアドバイスをさせていただきたいと思います。

 

 

4.1. いつから口述試験対策をするか

 

最初に、口述試験対策の開始時期についてお話しいたします。

私が口述試験対策を開始したのは、論文試験の合格発表が出された日の翌日からです。例年、論文試験の合格発表から口述試験当日までは2週間程度のブランクがあります。2019年も、10/10に合格発表があって、10/25に口述試験があったので、だいたい2週間のブランクがありました。

 

結論を言います。

1.この二週間の時間を全て勉強に回すことができる方は、論文の合格発表があってから対策を開始しても、十分に間に合わせることができます。一方で、家事、学校の授業、仕事などでこの二週間の時間を全て勉強に回すことができない方は、合計で二週間分の勉強時間を確保できる程度の時期から始めることによって(例えば、半日を勉強に当てることができる場合は、口述試験の4週間前から)(以下は前者の方を前提として文章を書きます。後者の方はこのように適宜読み替えてください)十分に間に合わせることができます

しかし、2. いずれの方であっても、精神衛生を考えるのであれば、前者の方は論文試験の合格発表日の1週間前から口述試験の勉強に特化した方が良い、いや、絶対に特化すべきです。

 

まずは、1.について説明します。

私は前述のように論文試験合格発表の翌日から勉強を始めましたが、結果としては、民事61、刑事61の合計122で合格することができました。これは結構良い成績だと思っています。また、私の周りの友人を見ても、あるいはTwitterやブログを見ても、口述対策は論文試験の合格発表後から開始したという人が多いように感じますが、彼らは結論としては基本的にみんな合格しています。

ということは、論文試験に合格する実力がある人であれば、論文試験の合格発表後から勉強を開始しても、基本的には間に合うということが言えそうです。

 

しかし、私が言いたいのはこのことではなく、むしろ2.です。

この2週間の勉強はとてもキツかったです。朝から晩まで、食事や休憩の時間以外はずっと口述試験の勉強をしていました。これくらい勉強して、主観的には「ギリギリ間に合ったか、あるいはちょっと間に合わなかったか」くらいです。

しかも、口述試験は、次の3つの理由でかなりのプレッシャーを感じながら勉強をすることとなります。

一つ目は、その極めて高い合格率です。口述試験の合格率は95%程度ですから、ほとんどの人が合格します。しかしだからこそ、落ちるわけにはいかないというプレッシャーが心を押しつぶすこととなります。論文試験であればそもそも合格率が低いので、むしろダメでもともとというマインドになることができます。しかし口述試験はそうはいきません。

二つ目は、口述試験に落ちると短答試験からリスタートすることとなることです。今まで短答試験、論文試験という二つの壁を乗り越えてきたのに、また最初からスタートとなってしまうのは、考えるだけできついでしょう。

三つ目は、これは人によるかもしれませんが、口述試験の再現答案を見て感じる受験生のレベルの高さです。私が再現答案の中の呼吸をするように条文番号を即答する様子を見たとき、論文試験の合格発表前にyoutubeを嗜んでいた自分が恨めしくなりました。

 

このように、二週間で口述試験の対策をするとすると、プレッシャーに押しつぶされそうな状態でひたすら勉強をすると言う日々を過ごすこととなります。客観的には1.で言ったように間に合わせることは十分可能なのですが、主観的にはヤバイです。お勧めしません。

しかし一方で、早くからやり過ぎても、しまりがない勉強となるのではないでしょうか。そもそも、他にやりたいこともたくさんあるでしょう。そうすると、例えば「論文試験が終わってからは口述試験の勉強をせよ」などと言うアドバイスは、ちょっと現実性を欠きます。

そう考えたときに、私が思う試験対策にかける必要十分な時間が、三週間です(エビデンスはありません。すみません!)。四週間は不要です。

確かに、論文試験に合格しているかどうかもわからないときに勉強などしたくないと言う気持ちはとてもよくわかります。しかし、合格発表前の一週間であれば、勉強を開始することも何とか許容できるのではないでしょうか。

一応確認しますが、三週間は口述試験の勉強に「特化」すべき、というのが私の考えです。「ボチボチ始める」のではありません。「ボチボチ始める」マインドならば、もっと前からやらなければなりません。

もう一つ、最後に確認します。口述試験前の二週間を試験対策に特化できない方が二週間前から勉強を始めると、主観的な話云々の前に、そもそも客観的に間に合わない可能性があります。それでも合格しているという方もたくさんいるでしょうが、運が絡んできてしまうように思えます。

 

では、具体的に何を勉強したのかについてお話しいたします

 

4.3. 口述試験対策として何をやるか

 

私が口述試験対策としてやったのは、

[民事]

①『要件事実30講』を二周回す。

②『法学民事訴訟法逐条解説』を二周回す。

③『基礎からわかる民事執行法民事保全法』のうち、保全に関するところを一周回す。

④試験直前に、民法の最重要論点のみをサッと見直す。

⑤試験直前に、弁護士職務基本規定のうち民事に関する条文を○暗記する。

[刑事]

①『入門刑事手続法』を二周回す。

②『基本刑法Ⅱ各論』を二周回す。

③試験直前に『基本刑法Ⅰ総論』のうち最重要とされているところのみをサッと復習する。

④試験前日に、弁護士職務基本規程のうち刑事に関係のある条文を読む。

です。以下、詳しく説明します。

 

まず、民事についてです。

民事は、過去問を見ればわかると思いますが、第一に要件事実を勉強することがまず何より不可欠です。要件事実の知識はかなり詳しく聞かれます。従って、何となく知っている程度では足りません。主要な要件事実は一瞬で答えることができる程度に理解・暗記しておいた方が良いと思われます(試験は緊張します…これくらいに仕上げておかないと、本番に出てこないことがあります)

と言っても、やること自体は単純です。要件事実について定評のある教科書やテキストを一冊理解するだけでOKです。予備試験の民事実務基礎科目で使った教科書やテキストがある方は、それを使って丁寧に勉強すれば十分です。もし教科書やテキストをお持ちでない方は、いわゆる「大島本」が定番なので、それを使えば良いと思われます(私は使っていないので、実際の評価はわかりません)。あるいは、私が使用した『要件事実30講』も使用していて特に不満はなく、むしろわかりやすいと思ったので、絶対的にはお勧めできます。

 

第二に、民事訴訟の手続きを理解していることも不可欠です。予備試験の論文で聞かれるような理論的なところよりも、民事訴訟のうち手続きや流れを重視して理解することが重要です。

私の知る限り、民事訴訟法を、理論面にあまり踏み込むことなく手続きを重視して解説した本はあまりありません。その中で、私が書店で発見した『法学民事訴訟法逐条解説』はおすすめです。もしこれといった文献を見つけることができず困っていらっしゃっる方がいれば、是非この本をお勧めしたいです。

 

民事については、以上の二つが大きな課題です。それに加えて、上に比べると重要度は落ちますが、保全手続きについて理解している必要があります。保全は中心的に聞かれるわけではありませんが、毎年のように聞かれるテーマだからです。

保全手続きは、これまた理論面よりも手続き的な側面を理解するべきです。例えば、どこの裁判所に申し立てるのか、とかです。

そして、保全の勉強方法も、上と同じように、既に教科書やテキストがあるかたは、それをざっと復習することで十分です。もし教科書やテキストがない方は、『基礎からわかる民事執行法民事保全法』のうち保全に関する部分の解説を読むことで足ります。

 

以上の三つが、最低限理解しておく必要があるものだと言えます。最悪、時間がない方は上の三つだけでも理解しておけばなんとかなるでしょう。

もっとも、これに加えて、是非とも弁護士職務基本規程の民事に関する条文はよく読んでおくべきであると思います。弁護士職務基本規程は、試験の最後に質問される可能性が高いです。聞かれることも、条文を知っていれば答えることができるものがほとんどなので、そう負担は大きくありません。単に条文を読んで覚えれば良いだけです。

ただ、弁護士倫理の試験における位置付けとしては、他の問いとの連関があまりなく、最後に単独でちょっとだけ聞かれることが多いです(この点が保全と異なります)。そのため、知らなくとも大きな減点になることはないと思われます。したがって、どうしても時間がない方は省略しても良いと思われます(省略することをお勧めしているわけではありません)。

 

なお、民法の理論面については、知識を確認をすることは有益ですが、これは省略しても致命的ではないと思われます。民法の理論面についての問いは出ないことはありませんが、論文に受かっている人であれば改めて勉強するまでもなく(ある程度)答えることができる程度の難易度のものしか出ないからです。

最後に、民事執行法は、これまた省略しても良いと思われます。民事執行法はあまり聞かれません。たまに聞かれても、それが問題の中心的なものとなることはないと思うので、致命傷になることはないと思われます。

 

以上をまとめると、

(何があっても絶対にやっておくこと)→要件事実、民事訴訟の手続面

(絶対にやっておくべきこと)→民事保全法

(是非ともやった方が良いこと)→弁護士職務基本規程の読み込み

(時間があればやっておくと良いこと)→民法の理論面、民事執行法

 

次に、刑事についてです。

 刑事は、第一に、刑法各論についての知識がまず不可欠となります。そして、口述試験では、論文の超頻出論点(例えば、詐欺、窃盗、強盗など)とまでは言えないようなテーマも出されます。したがって、刑法各論の勉強は、民法と違って、超典型論点だけやれば充分ということはなく、論点が展開されているものについては広く勉強する必要があると考えています。

と言っても、勉強の指針は簡単です。『基本刑法Ⅱ各論』で展開されている「論点」を網羅的に学習すれば良いだけです。

確認しますが、超典型論点だけやれば充分ということではありません。「論点」マークが書かれている内容は、網羅的に勉強する必要があると思います。例えば、犯人蔵匿・隠避罪は、論文で典型論点とは言えないと思いますが、基本刑法Ⅱでは「論点」が展開されているので、その論点については勉強する必要があるということです。もちろん、超典型論点もよく出ますので、詐欺や窃盗、強盗についての「論点」の学習も欠かせません。

 

第二に、刑事訴訟法の手続きについての知識の習得も不可欠です。

民事訴訟の勉強の場合、理論面よりも手続面を重視して勉強した方が良いと申し上げました。これに対して、刑事訴訟の勉強の場合は、手続き面を中心にすることは民事訴訟の勉強と変わりませんが、理論面もざっくりと復習しておくことが必要となります。刑事訴訟の場合、もちろん手続き面がよく聞かれることは同じですが、理論面についての出題もしばしばなされているからです。

では、どうやって勉強をすれば良いのでしょうか。私は、『入門刑事手続法』を素材に勉強することをお勧めします。この本は、手続き面を重視して内容が進んでいく一方で、理論面は全スルーということではなく、それなりの分量(理論面の説明が多すぎるということもない)が触れられており、まさに上記の要請にぴったり合致した構成となっているからです。この本のうち、上訴の部分を除いた部分を網羅的に勉強することをお勧めします。

 

これに加えて、第三に、刑法総論の知識も不可欠となります。

実は、上にも書いてあるように、私がした刑法総論の勉強は試験前日の数時間の見直しだけです。結果としては合格できたのですが、正直危なかったです…。テーマによっては撃沈していた可能性があります。

そこで、皆さんにおかれましては、是非とも刑法総論の超典型論点も学習することを強くお勧めします。超典型論点だけで構いません。

刑法総論の勉強方法も基本的には論文と同じなのですが、一点だけ申し上げると、「教科書説例」に着目して勉強することをお勧めします。例えば、不能犯の説例でよく、「人の飲み物に毒だと思って砂糖を盛った」みたいなものがありますよね?あれみたいなやつです。

というのは、口述試験は、性質上複雑な事例を出題することができません。口頭で問答をするわけですから、当然です。そうすると、出てくる事例は自ずと単純な事例になってくるわけです。そして、刑法総論は各論以上に内容が抽象的なので、刑法総論の知識を聞くとすれば、さらに事案が単純なものとならざるを得ません。そうすると、教科書設例の処理に着目して勉強をすれば、より適切な勉強ができるようになるというわけです。

あとは、最後に、弁護士職務基本規程は、直前でも良いと思うのでよく読んでおくべきです。もっとも、これが不可欠とまでは言えないことは、民事の場合と同じです。

 

刑事は、以上のことをやっておけば充分です。民事に比べてやる範囲は狭いので、どちらかというと刑事の方が勉強しやすいような気がします。

 

まとめると、

 

(何があっても絶対にやっておくべきこと)→刑法各論を論文以上に網羅的に、刑事訴訟を手続きに着目しつつ理論面もざっと、刑法総論の超典型論点

(是非ともやった方が良いこと)→弁護士職務基本規程の読み込み

 

ということになります。

 

最後に、民事刑事に共通することとして、一点だけお伝えします。それは、人に口頭で説明することを意識して勉強をすると良いということです。これについては勉強一般に言えるのかもしれませんが、人に説明するつもりで勉強することは、口述試験では特に重要だなあと感じました。試験官に質問されて、それに対して答えているつもりになって喋りながら勉強をするのは、一つ有益な方法なのかな、と感じました。

 

 

4.4. 口述試験の採点方法

次に、口述試験の採点方法を確認しましょう。合格ラインを知ることが試験突破のためには重要であると思うからです。

 

口述試験は、民事・刑事合わせて119点以上を取ることによって合格とされます。各科目に足切りはありませんので、合わせて119点以上をとることができれば、その内訳がなんであっても合格することができます。また、この合格点が年によって変更されることがなく、毎年119点が合格点とされています。

 

次に採点方法ですが、これがかなり独特です。民事・刑事それぞれ、基準点として60点が設定されています。つまり60点がデフォルトということです。そして、全受験生の半分ぐらいの人がデフォルトである60点という点数に評価されます。そして、残り半分くらいの人が61点以上または59点以下の点数となるように採点されます(と言っても、上位1/4が61点、下位1/4が59点と採点されるとは思っていません。特に、59点と評価される人は、1/4よりももっと少ないように思えます。この点については後述します)。この辺りについては司法試験委員会が通知を出していますので、一読されると良いと思われます。

 

http://www.moj.go.jp/content/001164619.pdf

 

制度的には、最大の点数は63点、最低の点数は0点だと規定されています。しかし、ほとんどの場合は58点から62点の間で推移します。0点の人とか、あるいは30点の人とかは実際にはいません(おそらくですが)。また、63点を取っている人も、私は見たことがありません。ほとんどの人は、というかおそらく全員といって良いと思いますが、58点、59点、60点、61点、62点の間で推移することとなります。

加えて、62点と58点はあまり出ない点数と考えてよいでしょう。とくに58点については、特別なことがない限りは出ないものと考えています。一方で、62点は、あまり出ないことは間違いありませんが、ほとんど出ないというほどでもありません。たまに出るというイメージです。

 

ということで、多くの場合に点数は59点、60点、61点の三択となります。「不良」、「普通」、「良」という評価の代わりに、「59」、「60」、「61」という文字が使われていると理解して、それほど間違っていません。つまり、60点という数字にはこれといった意味がないということです。そして、民事・刑事の点数を合わせて119点以上の人が合格となるのですから、要するに司法試験委員会が言っているのは、「民刑両方不良の奴はアウト、どっちかで普通以上をとればセーフ」ということです。

 

合格率は年によって異なりますが、大体95%ぐらい(令和元年は96.4%でした)です(この数字からすると、59点と採点される人は1/4よりさらに少ないことが予想できそうです)。すなわち、大抵の人が合格します